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このページは、ゲーム「エンドブレイカー!」に関するメモ書きです。「らっかみ!」「CelestialCall」についてはカテゴリーから。
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さて、ネタバレになりますが、
カイザックについてPBWで出せなかった故郷の話を、せっかくなのでここに。
カイザックは昔のことをあまり口に出さなかったので、すこし無駄になってしまいました。

・長い
・拙い

です。ご注意を。

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カイザックは春に旅をはじめた。
夏の間ずんずんと進み、秋になって足を止め、冬には根っこを生やしてしまった。
これは、旅をはじめる春の、そのさらに前のお話。




+ + + + + + + + + +


「ルル、遅くなってごめん」
白い息を切らして呼びかけても、恋人はちらりとも視線を返してくれなかった。その代わりに、呆れたようなため息がひとつ。
ーーええ、ほんとうに。
そう言われた気がして、カイザックは言葉を詰まらせる。
ひどく長く待たせてしまったから。
「ルル」
花束を彼女のそばにおいて、その芯まで冷えきった左手をそっと握る。
「こんなぼくを選んでくれてありがとう」
恋人の薬指に、自分と揃いの指輪を通してやりながら、カイザックは涙をこぼした。

死がふたりを分かつまで

ルルこと、ルクリアは、財力ある銀行家の三番目の娘である。栗色の緩く巻いた髪に、聡明な青の瞳、愛らしい容姿に優しい心根を持ち、誰からも好かれるけれど、ほんのすこしだけ世間知らず。早くに母親を病で亡くし、ほとんど帰ってこない父親や既に嫁いだ姉たちの代わりに、女中に混じって腹違いの弟妹の世話をよくしている。
それから、没落貴族のひとり息子カイザック・フォン・ラスネイルの、ひとつ年上の婚約者であった。
親どうしの決めた、いわゆる政略結婚だったが、ふたりは次第に惹かれあい、全く問題なくことが進むように思われた。
「やめよう」
明日にでも籍を入れようというとき、カイザックがそう言った。
「ど、して?」
ルクリアの声はいまにも泣き出しそうに、小さく震えていた。


「てめえがルルの婚約者ァ?」
頭ひとつぶん背の高い少年が、カイザックの曇天色の瞳を覗き込んで言った。ルクリアは慌てたが、カイザックは臆することなく頷く。特異な髪色と目の色を持つカイザックは、じろじろ見られることに慣れっこであった。
「お会いできて光栄です、アルトゥールさん」
カイザックがにこりとすると、アルトゥールは眉根を寄せて顔をしかめた。
皆に好かれるルクリアが、友人を紹介したいと言うのはしょっちゅうだった。カイザックは毎回喜んでその友人たちに会い、そのたびに友人を増やしていた。
アルトゥールはルクリアの幼馴染で、カイザックのふたつ年上。黒髪の美男子だが、言葉遣いが荒っぽい。
ほんとうは優しいのに、素直になれないひとなの。ルクリアは耳打ちで、彼をそう紹介してくれた。
「カイをいじめないでちょうだい」
ルクリアが心配そうにアルトゥールの横顔を見る。
「いじめねえよ」
そう返事をする彼の顔を見るや、カイザックの頭の隅に不安がよぎった。
睨みつける黒い目がカイザックを突き刺す。それでもなおカイザックは笑みをそのまま、アルトゥールにだけ聞こえるようにこう言った。
「あなたもルルがお好きなんでしょう?」

端的に言えば、カイザックは彼にぶん殴られた。よろめいたが、その白い頬に痣ができたくらいで口の中を切らずに済んだし、痛い以外にはなんとも思わなかった。ルクリアが慌て駆け寄り、カイザックを背にかばってアルトゥールに抗議する。その間カイザックは、ははーん図星だな、そう言いたげな顔で赤い顔のアルトゥールを見ていた。
「もう一発殴られてえか」
アルトゥールは高級そうな上着の袖を乱暴に捲ってカイザックに歩み寄った。彼もまた、金満家の次男だ。
「遠慮します」
カイザックはにやついた顔を外交用の笑顔に戻した。

アルトゥールは後日、すっかり頭を冷やしたらしく、菓子折りを持ってラスネイルの屋敷まで謝りに来た。客間へ招くと、貴族と言うわりに質素な暮らしぶりを見てアルトゥールは面食らったようだった。
「ラスネイルは潰れた貴族ですからね」
カイザックは一人しかいない女中や忙しい母の代わりに自分で紅茶を出して、青い痣の残る顔で微笑んだ。ただそのとき、頭の隅で思っていたことがうっかり口をついて出た。
「あなたのほうがお似合いですね、ルルと」
言ってしまってから、はっと口を噤むがもう遅い。アルトゥールは複雑な顔をして苦々しげに答えた。
「ルルにはお前しか見えてないぞ」
彼の話によると、ルクリアと顔を合わせるたびにカイザックとの惚気話を聞かされ、ドレスを選ぶにしてもカイザックの好みを最優先して、アルトゥールの指摘は全く聞き入れられないのだとか。
「俺の前でわざとやるんだ。カイは青色が好きだから、って、青ばっか。わたしのことは諦めてって言ってるんだろ、あれは」
苦笑いで相づちを打ちながら、カイザックはその話の中の小さな引っかかりに蹴躓いていた。そんなにふたりで顔を合わせるのかだとか、それまで彼がルルのドレスを選んでいたのか、だとか。
付き合いが長いのだから、仲が良いのは当然だ。そのぶん彼は、それだけの長い期間、ルルを想っているのではないか。ルルもそれを知っていてなお、ぼくと居ようと無理をしているのではないか。
そんな彼をぼくは軽い気持ちでからかったわけだ。カイザックは氷水のような自己嫌悪に襲われた。
……ああ、やっぱり、ルルは彼といる方が幸せになれる。


「どうして?」
か細く震えるルクリアの声に、カイザックは我に帰った。泣かないで、とルクリアの髪を梳く。
「ルルには、ぼくなんかよりもっとお似合いの人がいるよ」
だから、やめよう。こう言うのは、ぼくのわがままだけれど。
カイザックも泣きそうになる自分をぐっと押しとどめて、笑みを無理やり作ろうとした。それは外交用の顔になった。
その表情からなにか敏感に読み取ったルクリアは、潤んだ瞳のまま唇を引き結んだ。しばらく黙り込んで、カイザックへ向きなおる。
「それならわたくし、あなたが良いとおっしゃるまで、ずっと待ちます」
しっかりしたよく通る声でルクリアは宣言した。髪をなでるカイザックの手を取って、きゅっと握る。
「わたし、カイのお似合いの人になりたい。背伸びばかりするあなたの、そばにいたいの」
……逆だよ、ルル。
カイザックはしばらくルクリアと見つめあってしまった。泣くまいとする彼女の表情に悔しさと愛しさとがないまぜになって、つい、ぎゅっと抱きしめた。
「ごめん」
腕の中でルクリアは、結局泣いてしまった。


その日から催促もせずに(口論は一度だけあったが)、ルクリアは3年間も待っていてくれた。出会ってからは、もう7年も経っていた。

けれど秋の終わり頃、ルクリアは体調を崩してしまう。原因のひとつに心労もあったと聞いて、カイザックは自分のせいだと思った。
体調が回復したあとも、ふたりは出かけるのをやめて、ルクリアの部屋で会うことにしていた。4人掛けのソファに、ふたりで座るのがお決まりになっていた。
「わたし、きっともう長くないの、お母さまと同じ病気だもの」
カイザックの手の感触を確かめながら、ルクリアは何でもないことのように言った。返事に代えてひどく暗い顔をしたカイザックに、ふわりとすり寄る。
「そんな顔しないで、カイ」
ーーだって、ぼくのせいで。そう言い返そうとしたカイザックの唇に、ルクリアの人差し指が押し付けられる。押し黙ったカイザックを見上げて、満足げにルクリアは笑った。
「わたしは幸せものね」
ふわふわと流れる髪に、青い飾りが揺れた。幸せだと言う彼女の笑みが、ほんとうに幸せそうに見えて、カイザックは見惚れてしまう。死ぬことが、怖くないはずないのに。
「カイ」
ルクリアは、そっとカイザックの背に手を回す。受け止めたカイザックにしがみつくように、肩口に顔を埋めて、くぐもった声でつぶやく。
「愛してる、の」
カイザックは眩暈に見舞われた。これまで何度も言われたし、言ってきた言葉ではあったけれど。
抱き返す腕を弱めて、顔を覗き込む。
「ルル」
「はい」
機嫌良く返事した恋人の耳もとに唇を寄せて、カイザックはささやく。
「今晩、泊めてくれる?」
自分でも笑ってしまうようなあからさまな誘いだったが、ルクリアは小さく頷いた。


体調が良かったのは、この頃までで。
ルクリアは少しずつ少しずつ病に蝕まれて、雪が降る頃には、ついに伏してしまった。
カイザックが病床のルクリアを訪ねると、そこにはたいてい先客がいた。アルトゥールだ。
「よかったなルル、リンゴ剥く係が来たぞ」
彼はカイザックが来るとすぐに席を立って、ルクリアの相手役を譲ってくれた。
「アルはリンゴを剥けないんですって」
部屋を出てゆくアルトゥールの背中を見送って、ルクリアは楽しそうに笑う。
……でも、その笑顔を作ったのはアルトゥールだ。やはり、カイザックの心は躓いてしまう。

「また明日も来るね、ルル」
帰り際に、カイザックはいつもそう言う。
この日はカイザックの18歳の誕生日で、ルクリアは顔色も良く、いつもよりご機嫌だった。
「カイ、」
ルクリアは毛布からそろりと手を出して、カイザックの頬に触れる。
「大好き」
ふにふにと頬をなでられながら、カイザックもルクリアの鴇色の頬に触れた。
「ぼくも」
指をすべらせて、恋人の顎を軽く持ち上げる。
「愛してる。ルルのこと、誰よりも」
……アルトゥールなんかよりもずっと。
すこしだけ息を止めて、目を閉じる。ふたりの唇が軽い音を立てた。


ーーわたし、カイのお似合いの人になれた?

ルクリアが息を引き取ったのは、その次の朝。穏やかに眠ったまま、目を覚まさなかったのだと言う。
それを見つけてしまったのは、やはりアルトゥールだった。彼からの知らせがすぐに、ラスネイルの屋敷にも届いた。
カイザックは神様も天国も地獄も信じていなかった。だから、何に祈るでもなく、ただひとりで悲しみの深い沼に突き落とされた。
死体になったルクリアを訪ねることは、カイザックにはできなかった。
ようやく黒い服を着たのは、埋葬する、その日であった。
花束を持って、3年間眠っていた指輪を持って。足はひどく重かった。


「ルル、遅くなってごめん」
棺をいまにも閉めて、埋めようというとき、カイザックは白い息を切らして駆けつけた。参列者の中から、呆れたような、誰かのため息が聞こえた。構わず、カイザックは、ルルのすぐそばへと跪く。
くすぐれば、目を開けて笑い出しそうな、美しい死化粧。カイザックは歯を食いしばった。
「ルル。こんなぼくを選んでくれてありがとう」
花束をそっと棺に納め、恋人の手を取る。薬指に自分と揃いの指輪をそっと通してやりながら、声をかける。
「起きて、ルル」
ーールルは死んだ。理解している。死んだ人間に声をかけるなんて馬鹿げている。
「ぼくだよ、わかる?」
もちろん、返事はない。当たり前だ。
もう遅い。なにもかも。
指輪はきちんとはまったが、ほんの少しゆるいようだった。痩せてしまったのだろう。熱を持たない彼女の手に、ぽたぽたと涙が落ちた。

「……おやすみ」
どのくらいそうしていただろう。
黒い服の人々は、誰ひとり文句も言わずに待っていてくれた。
カイザックがその身を引くと、ゆっくりと、棺の蓋が閉められる。冷たい箱と土の中に閉じ込められる恋人の姿を、カイザックは唇を噛んで見つめていた。
悲痛とはよく言ったものだ。呼吸もままならず、心臓が脈打つたびに軋む。本当に痛い。
噛み締めた唇から血が垂れたのを、誰かが乱暴に拭った。
「死のうなんてバカなこと考えるんじゃねぇぞ、花婿」
口調のわりに優しいその声の方を、カイザックは見返せなかった。
「アルトゥールさんこそ」
やっと返した言葉は、ほとんど掠れてしまった。


届け出はだめもとで提出したものだが、驚くべきことに政略結婚は成立した。カイザックの父親か、ルクリアの父親か、どちらかが取り計らってくれたのかもしれない。
こうしてカイザックは没落貴族の一人息子から、財力を得て、かつての貴族へと返り咲いた。女中が増えて、もう自分で紅茶を淹れることもない。
カイザックはため息をついた。
……こんなもののために、指輪をはめたんじゃない。

冬が明けてすぐ。軽い荷物を持って、カイザックはルクリアの墓標の前に立った。春と言うにはまだ寒いが、カイザックがひとつずつ植えた白い花たちが、一面に咲きそろっている。
もしルルがこれを見たら、どんなに喜んでくれただろうと、ぼんやり思う。
……そんな綺麗な理由で植えたんじゃないけど。
この花は、ラスネイルから寄贈されたものだ。遺された新郎の献身的な庭仕事は、ラスネイルの体裁をたいへんよろしくしてくれたし、カイザック自身の喪失感を和らげてくれた。
「ずるいよね」
誰に聞かせるでもなくつぶやく。
カイザックは自分の左手から指輪を抜き取って、花で囲まれたルクリアの墓前にそっと置いた。
踵を返すと、すぐ後ろに頭ひとつぶん背の高い青年が、カイザックを睨むように見下ろして立っていた。
「珍しく先越されたと思ったら、どこへ行く気だ、花婿」
黒い瞳は、それだけで刺し殺されてしまいそうに鋭い。カイザックは苦笑した。
「旅行です」
そう答えて、カイザックは歩きだした。でもすぐに足を止めて、アルトゥールの方を振り返る。
「アルトゥールさんは、水をやる係」
一言だけ。怪訝そうにした黒いまなざしが、まばたきで頷いて見せた。
「……ルルが喜ぶだろうからな」
カイザックは返事の代わりににこりと笑う。荷物を持ち直して、もう戻るつもりのない故郷に背を向けた。


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【死がふたりを分かつまで】


拙い文章でわかりづらいと思いますが、ひとつカイザックを弁護すると、
青い目のこまどりを殺したのは、白いすずめではなくて、カラスです。
すずめはそれを知らなくて、弓と矢羽を捨てました。

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紹介
カイザック
男 12/26 成人 Cayzac

ひょん(?)なことから屋敷の管理を任され、今日もそこで誰かを待つ、元家出人。外見の冷たい雰囲気を、声と表情がやわらかく暖める。// 温厚で寂しがり屋でマメ。気が弱く頼りないけれど、言いたいことは言う気質。// 彼が歩くと、涼しい音が聞こえる。湖畔の屋敷を訪ねれば、いつでも会える。

ウィルマ ミュラー
男 2/15 未成年 Wilma Müller

マスターをすっかり見失ったガーディアンの元野生児、現体育会系アルバイター。家族はなく、現在は湖畔の屋敷に居候中。// その長身から怖がられることが多く、朗らかな表情と口調を心がけている。人なつこく、人に触れられるのが好き。// カイザックを「ご主人さん」と呼ぶ。

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渡 祐一
男 12/26 未成年 わたり ゆういち

天文部と合唱部に所属するごく普通の高校生。ちょっと違うのは、色が白いこと。食い意地が張っている、デジタルネイティブゆとり。

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ざっく (背後)
カイザックのひとつ年下

趣味の絵描き。ドイツ語が読めます。

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